舞台「隠し砦の三悪人」/新歌舞伎座 感想

ということで、「隠し砦の三悪人」ですが、これ、原作は言わずと知れた黒澤映画の傑作。別にこの原作を見ていなくても舞台は楽しめますが、比較して見るのが面白いです。

まず、原作のこのタイトルの「三悪人」というのがよくわからんといえばわからない。別に「悪人」ではなくて、侍の三船敏郎と百姓の千秋実、藤原釜足の3人は主役の「こちら側」の人ですから。

あと、原作では馬がそこここに登場し、特に三船が馬上で疾走しながら敵に切りつけるシーンはもうすごい迫力です。また、ラストの場面で馬に乗って走り去るところも印象的です。

ところが舞台では実際の馬を登場させることはできず、もちろん馬が本当に疾走するようなことはできません。かといって「木馬」や「人馬」では原作の迫力などは到底出ません。で、舞台でどうしたかというと、馬が登場するシーンは全部なくして、別の形に入れ替えたりするということをしていました。

舞台は基本的に原作のストーリーや各キャラクターの雰囲気を大事にした展開になっていました。

映画での百姓2人は、あの「スターウォーズ」のC3POとR2D2のモデルとなったことでも有名ですが、六角精児さんはもう見たそのままの雰囲気、風間俊介君はちょっと藤原釜足さんの枯れた雰囲気には似合わないかと思っていましたが、軽妙なやりとりなど十分役に入り込んで演じている感じがしました。

映画では姫様役を新人の女優さんが演じていて独特の存在感を出していましたが、欅坂46出身の小林由依さんは舞台の役者さんとしては初めての演技。こういうところも原作を習ったような感じです。

竹林での立ち回りのシーンは原作にはないもので、見せ方も含めて面白かったです。

そしてラスト20分ぐらい。悪役の山名と真壁の立ち回りのシーンの途中で、なんと舞台装置が動かなくなっていまい、進行がストップ。あとで聞いたら、これは落雷の影響の可能性がありということでしたが、ここで10分以上は中断。そして再開時はちょっと時間を巻き戻すような感じで立ち回りのシーンの最初のところからまたはじまりました。続きのシーンを見るとここは舞台装置が動かないと流れがつながらないところでした。

カーテンコールの挨拶の時に上川さんも盛んに恐縮していましたが、結果的にはこの中断も「楽しめた」ということになります。

もしかしてがっかりするかもという危惧をちょっと抱きつつの舞台見物でしたが、原作を超えたとは思わないものの全体として十分に楽しんで見ることができました。

ただ、北野武が「座頭市」でオマージュ的に似た場面を演出した火祭りの踊りの場面、ここは舞台でもなにかさらに迫力のある演出ができなかったか・・・、と思いました。

なお、見た席は一階の一番後ろの方だったのですが、花道のすぐ横で目の前をだーっと役者さんが走り抜ける様子を見られて、これも楽しめました。

野田秀樹の台詞が独特で場面もあっちへいったりこっちへ行ったりで話の展開そのものがとらえにくかったりする舞台とは違い、もともとの原作に忠実なわかりやすい展開で多くの人が楽しんで見られたのではないかと思います。

野田さんの舞台も楽しめましたが、今回の「隠し砦の三悪人」もよかったです。やはり、見たい舞台は見られる時に見ておかないといけません。

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